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『獺祭』は なぜアル添しない?

アルコール添加にはお酒の増量の目的とは別に、モロミから味と香りを引き出す効果があると前回書きました。

では、山田錦100%使用の『獺祭』にアルコール添加を行えば、もっといい酒になるのでは?
『獺祭 純米大吟醸』ばかりでなく、『獺祭 大吟醸』もあっていいのでは?
せっかくの山田錦が勿体ないではないですか?

そんなことを考えて、昨年の蔵訪問の際に旭酒造の桜井常務に率直に聞いてみました。
『アルコール添加はしないんですか?』 と。

すると、常務の返答は・・・
『うちの子(蔵人)たちは難しいことはできないんです。
いろいろさせると間違いの元ですから・・・』

意外な返答にビックリしました。 
随分な謙遜だなあとも思いました。

しかし、約1年経って考えると、この言葉の裏にある意味が少しわかるようになった気がします。
今、のんべえが思いつく『獺祭が純米100%を貫く理由』は以下の4点です。

【 ①本当のアルコール添加はけっこう難しい 】
単に量を増やすのが目的であれば、添加のタイミングとか添加量は計算すればでるのかもしれません。
しかし、自分の目指した酒質を出すためのアル添となると、かなりの経験が必要な職人技になるのではないでしょうか。
経験豊かな杜氏さんを抱えていない旭酒造さんでは、そのような高度なアルコール添加はやらない方が無難、という判断があったのかもしれません。

【 ②獺祭の目指すライトタイプの大吟醸にはアルコール添加は不要 】
しかし、本当に必要であれば、技術的なハードルは超えられるはずです。
それでも旭酒造さんがアルコール添加をしないのは、ユーザーが求める酒質との関係が大きいと思います。

獺祭は味も香りもライトタイプだと思います。
香りはメロンのような甘いフルーツ系がはっきりとわかるのですが、それほど強くありません。
味も濃厚さはなくて、サラリとした辛口で口当たりがよくて飽きがきません。
悪く言えば、米の旨みに乏しく腰がない。 要は日本酒らしさが少ないのです。
しかし、初めて獺祭を飲んだ人の感想は『日本酒じゃないみたーい!』と感嘆の声。
日本酒らしくない、腰がないことがプラスに評価されていると思うのです。
日本酒は嫌い!と言っていた人も『これなら飲める!』とスイスイ飲みますよね。

もし獺祭に、菊姫風のアルコール添加をすると、香りも風味も濃厚な大吟醸酒になるでしょう。
旨みは増す反面、米っぽさ、酒っぽさが増してしまい、獺祭らしさが消えてしまうと思うのです。
そうなると、重たくなった分、飲める量も減ってしまうと思います。

『菊姫大吟醸』と『獺祭大吟醸』、(値段は考えずに)どちらがたくさん飲めるか?
やはりライトタイプの獺祭のほうが消費が早いと思うのです。
私が社長でも、たくさん飲んでもらえる酒質を狙いますよね。

【 ③生産効率を上げるには商品アイテムの絞り込み 】
獺祭の商品ラインナップは極端に少ないですね。
普通酒、純米酒、本醸造酒、生貯蔵酒、生詰め、ひやおろし、古酒などなど一切ありません。
酒米は一つ、酵母も一つ、造りも一つ。

バライティーには乏しいものの、売れ筋に絞り込むことで、設備も少なくて済むし、手間も少なく、在庫も持たずにすむわけです。
ほかの酒蔵に比べるとキャッシュフローが極端に優れた酒造りを実現していると思うのです。
そのような経済的観点からも、アルコール添加などでアイテムを増やすことは全く余計なことなのかもしれません。

【 ④海外輸出にはアルコール添加は邪魔物 】
桜井社長は海外への市場拡大に非常に力を入れておられます。
獺祭の生産石高は2500石とききましたが、その中のかなりの量が海外へ輸出されているようです。
そのメイン市場となるアメリカの酒税法では、アルコール添加された日本酒は醸造酒ではなくリキュールとなってしまい、税率が上がってしまうらしいのです。
また、外国人へ説明するときにも、添加物をなくし米だけを原料としていたほうがいいようです。
海外対応から考えても純米100%には大きな意味があるのではないかと思います。


【結論】
以上のような4つの理由を考えたのですが、中でも②の理由が一番大事だと思います。
欧米化した現代の日本人の食生活と舌にマッチしているからこそ、獺祭は人気があるのだと思います。
だから海外でも受け入れられるのだと思います。

多くのユーザーの味覚にマッチしたお酒を、低コストで大量生産して安く販売する、それが獺祭のコンセプトであり、そのコンセプトのためにはアルコール添加は考えられないと思います。

菊姫は『菊姫らしさ』のためにアルコール添加を行い、
獺祭は『獺祭らしさ』のために添加しない。


ただそれだけだと思います。
アルコール添加が良い悪いではなく、酒造りの一つの高度な技法と思っています。
それがのんべえの結論です。


しかし、のんべえも 『やっぱり、アル添はマズイ!』 と良く感じます。
では、一般の普通酒や本醸造酒にはどれくらいのアルコールが添加されているのでしょうか?
次回はその辺のお話にしようと思います。

≪おまけ≫
アルコール添加を行っていない獺祭の酒粕には、旨みや香りがたくさん残っているはずです。
なんとも勿体ない! という想いは桜井社長も同じだったようです。
旭酒造さんでは、獺祭の酒粕を通年販売されています。
また、 酒粕を使って造った石鹸も販売されています。
貴重な酒粕を無駄なく使っておられます。




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by sakenihon | 2009-07-25 21:06 | 日本酒の作り方  

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