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日本酒の造り方 番外編『お米のはなし』

先日の「日本酒の造り方 その一」の中でそのステップの①として「お米を栽培します」と書きました。
お酒に関する本やサイトなどの造り方ガイドを見ると、「精米」からスタートしていることが多々ありますが、日本酒造りはお米の栽培から始まっています。
ですから、造り方の説明の前にお米のはなしを書かせてください。

お米は『酵母菌』にとっての大切な食料となります。
麹菌がお米のデンプンから作ってくれた糖分を酵母菌が食べて、アルコールを排出してくれますから、どんなお米を食べさせるかでお酒の味や香りは大きく変わってきます。

日本酒を造るためのお米のことを「酒米(さかまい)」といいます。
酒米の中でも特に酒造りに適した品種として農林水産省が指定したものを『酒造好適米』と呼んでいます。
私たちが御飯として食べるお米は「一般米」とか「食用米」といいます。

≪すぐれた酒米の特徴≫
 ①酒米は一般米に比べて粒が1.2倍ほど大きい。
 ②透明なお米の粒の中心にある『心白(しんぱく)』と呼ばれる白い部分が多い。
 ③米粒の外側は精米時に割れにくいように硬く、中の心白部分は麹菌が繁殖しやすいように柔らかい『外硬内軟(がいこうないなん)』といわれる性質をもつ。
いわゆる「外はカリっと、中はふっくら。」というやつです。
 ④酒米は粒が大きいゆえにイネの丈も一般米より10~20cmほど高いものが多く、風雨で倒れやすい。だから倒れにくいものがベター。

酒造好適米の作付面積は全体の1%程しかなく、特に人気が高い品種は慢性的に供給不足の状態です。価格も一般米より高くて10kg当たりで3500円から7000円ほどもするそうです。
各地でその風土に合ったさまざまな酒造好適米が栽培されています。

ワインの場合は醸造家自身がブドウ畑を所有し、自分で育てたブドウを使ってワインを造るのが原則ですが、日本酒はお米の産地とお酒の醸造場所は一致してません。
特に吟醸酒を造るに適したお米は限られるため、遠方からでも仕入れて使うことが一般的な状況です。

≪特に作付面積が多い酒造好適米の代表品種≫
【山田錦】 
 兵庫県で大正時代に開発され、兵庫から福岡にかけた西日本中心に栽培される、『酒米の王者』高精米でも割れにくい物性面でも優れ、雑味のないキリッとしまった酒質となるため大吟醸酒などに多く使われます。日本酒鑑評会というコンテストに出品されるお酒の大半は山田錦で造られています。
【五百万石】
 東北地方から中国地方の広い範囲で栽培され、作付面積ナンバーワン。
 バランスのいい酒質となるため吟醸酒に多く使われます。
【美山錦】
 長野県で開発され、寒冷地でも生育しやすいため東北地方に多い品種。
 お米の香りがよく出て旨味のあるやさしい酒質になり、東北地方のお酒の特性にもマッチします。
【雄町】
  岡山・広島で栽培される歴史のある品種で山田錦の父本でもあります。
  山田錦と同じくしまりのある男性的な酒質になります。

 そのほか、広島の八反錦、佐賀の西海134号、山形の出羽燦々 亀の尾、京都の祝、高知の風鳴子、富山の雄山錦、などなど品種改良・交配が進み各地各県で特徴ある酒造好適米が開発されています。
 そのほかにあえてコシヒカリなどの食用米を使った日本酒もあります。
酒造好適米が使われるのは吟醸酒などの高価格のお酒がほとんどで、それらには使ったお米の銘柄も裏ラベルに記載されていることが多いです。
普通酒など廉価なお酒には、比較的酒造りに適した一般米が使われています。

≪山田錦の中の山田錦≫
さて、数ある酒米の中で『王者』とも『横綱』とも評される山田錦。
山田錦の中でももっとも評価が高いのが、明石市から六甲山地を越えた内陸部の丘陵地帯、兵庫県三木市一帯で収穫される山田錦です。
その中でも産地集落でさらに特 A B Cなどのランクがあります。以下のリストはその集落ごとのランクと契約先の蔵元です。
正に山田錦の中の山田錦のリストといえるのではないでしょうか。

〈クリックで拡大します。〉
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(表中の美嚢吉川町は現在は三木市吉川町となっています。)

平成10年のデータですので、現在は多少の変化はあるかもしれませんが、長い歴史とお付き合いによって兵庫県の大手酒造メーカーが契約先となっており、新規では容易には手に入らないお米ということがわかります。

≪有機・無農薬米にこだわる蔵元≫
お米の品種だけではなく、その作り方にこだわったお米を使った蔵元もあります。
契約農家と二人三脚で無農薬・減農薬の有機栽培でコメ作りを行っている蔵もあります。

私のお気に入り、千葉の『寺田本家』さんはカブトエビを使った無農薬米栽培を行っています。
また福島県矢吹町の『大木代吉商店』さんは完全無農薬栽培で抜群の純米酒『自然郷』を造っています。
このほかにも最近の食の安全問題も関係してなのか、同様の試みを行っている蔵元が増えてきているようです。

≪自分でお米を作る蔵元≫
珍しいところでは、蔵元自身が独自の品種の酒米を栽培して酒造りを行っている蔵元があります。
石川県は能登半島の付け根、河北郡津幡町の久世酒造店さんです。
1786年の創業以来ずっと自前での長生米というお米を作っているお蔵です。
お酒の銘柄は『長生舞』です。長生米で造った長生舞というわけです。
こちらのお蔵さんは6月に訪れて大変お世話になり、いろいろなことを教えていただきました。
改めてゆっくりご紹介したい蔵元さんです。

≪最後に一言≫
確かに山田錦の吟醸酒は美味しいし、安定した酒質が期待できるため安心して飲めます。
ただし、だからと言って全国の酒蔵がこぞって兵庫県産の山田錦でお酒を造ったのでは、みんな同じようなお酒になってしまします。
実際、鑑評会で入賞したお酒はみな同じように美味しいですが、バラエティーに富んだ各地の味は味わえません。
ワインの場合は、ボルドーはボルドーだし、ブルゴーニュはブルゴーニュ、トスカーナはトスカーナとそれぞれの個性を大事にしています。
日本酒も同じように、それぞれの地元のお米、水、酵母、風土を生かした魅力が出たお酒でなければ楽しさ半減ではないでしょうか?
このブログでは、できるだけそのような個性ある日本酒を紹介してゆきたいと思っています。

by sakenihon | 2008-10-18 23:53 | 日本酒の作り方  

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